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Vol.2:渋谷直角さん

リプラン妄想住宅

妄想住宅とは

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渋谷直角さん

1975年生まれ、東京都出身。ライター、漫画家、コラムニストとして多方面で活躍中。雑誌『食べようび』『EYESCREAM』『SPA!』などで執筆するかたわら、WEB連載や単行本の執筆など、精力的にこなし、数多くの作品を世に送り出している。マンガ『カフェでよくかかっているJ-POPのボサノヴァカバーを歌う女の一生』が2013年7月に発売され、爆発的な売れ行きを見せている。

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渋谷直角さんのお仕事

ライター、漫画家、コラムニストと幅広く活躍されている渋谷直角さん。実際どんなお仕事を、どんな想いでしているのでしょうか?

住む場所の条件として「東京」もしくは「東京近郊」というのは必須条件ですか?

「この仕事をするなら、都心からあんまり離れてはいけないのではないか」という持論があって。僕がライターとしての仕事をスタートした『relax』*の編集長が変わって、編集方針が変わって、追い出されて…という時期に、仕事がすごく減っちゃって、明日どうしようっていう日々があったんです。いろんな雑誌で名前の出ない没個性な原稿なんかもたくさん書いて、でもそういうのは超得意なわけでもないので、このままだと俺、どうなっちゃうんだろうなあ?っていう気持ちを抱えながら。その頃のトラウマがあるせいか、都心から離れると編集部から忘れられてしまうのではないか、という恐怖が常にあるんです。意外とね、偶然飲み屋とかで会って仕事振ってくれる、みたいなことも多い業界なので。

今はインターネットなどいろいろな手段があって、東京と地方との物理的な距離はあまり関係なくなっているとは思いますが、やはり心理的な距離でしょうか。

そうですね。実際に今回みたいに北海道から声をかけていただいてとかはもちろんありますし、郊外で大きな家に住んでマイペースに仕事して…みたいなライフスタイルは憧れるんですけど、それでも街に出ていろんな人と会うのが好き、っていう性格なら大丈夫でしょうけど、僕、そんなの絶対引きこもっちゃうから。仙人みたいになって、完全に忘れられてしまう気がして。その部分は非常にアンビバレントなんですけど、「忘れてほしくはない、でも街で会ったら話しかけてほしくない」って(笑)。

東京の中でもさらにこのエリアに住んでいる、ということはお仕事上の理由もあるんでしょうか。

中央線沿線のほうに住もうかと思ったことはあるんです。家賃も物価も安いしうらやましいなって。ただ、そっちのほうに住んだらいろいろ、書いてるものとかイメージも変わってしまうかもな、っていう恐怖があって踏みとどまりました。やっぱりライターも生息地域があるというか、今でも「『relax』の人」「マガジンハウス系の人」って思われているところはあるし、わざわざそれを否定してまで、生息地域を変える必要もないのかなって。

個人でお仕事されていると「住む場所=オフィス」だったりするので、そのパブリックイメージというのはありますよね。

住む場所によっていろいろ影響があるというか、影響がありそうなので、自分のスタンスが変わらないでいられるようにというのは考えていますね。もう「東横線の人」としてどっかと腰を落ち着けていこうかと。

直角主義

もともと「ライターになりたい」という希望はあったのですか?

まったくないです。アルバイトからはじまって気がついたら書いていたという感じで、ライターとしての使命感みたいなものは全然なくて。我流でずっとやってきてしまって。最初からいかに「オレ」を出していくかっていうことばっかり考えてました。インタビュー取材だとしてもその対象をいかに魅力的に書くかとかは全っ然考えずに、「対象! &オレ! オレ! オレ! 基本オレ!」っていうのが常にあった。今思うと、そんなライター絶対ダメなんですけど、『relax』はわりと自由に書かせてくれていて、よくそんなんで今まで生き延びてきたな…という。「あっぶねえ~」みたいな。もちろん、そんなライターだったから、『relax』を追い出されたあとはひどいことになったわけですけど(笑)。

名前の出ないようなお仕事もしていくうちに、そつなく書くこともできるようになっていった?

そうですね。仕事もらえなくなっちゃうんで必死でやりました。でもそういう、「対象を魅力的に書くのが大事」的なのも、書いたら書いたですごく楽しいし、やりがいのあるものなんです。けど、そっちが多くなりすぎるとまた不自由を感じるという… 。

今はわりと「オレ」のほうのお仕事が多いですよね?

最近はほとんどそっちですね。ありがたいことに。でもアウトプットが多くなったぶん常にネタを探しているという状態にはなってしまっていて。暇だったころはブログに書き綴っていましたけど、今は何かおもしろいことがあったら「あの連載に使えるなあ」とか思ってしまって、ストックがすぐなくなってしまう。だから、ネタにしても表現方法にしても、もう少し余裕がある感じだといいんですが。

絵やマンガを描くということも、もともと志向していたわけではないのでしょうか。

うーん。僕の場合、「絵の問題」というのがあってですね…ひとえに岡本さん**が「直角描いて」って言ってくれて描きはじめたものが、なんだかんだ続けられて今に至るという感じで。まったく上手ではないし、仕事として描いてお金をもらうということが成立していいのだろうか、というのはずっと自信なくてですね…。まあでも「このままでもいい」「これも味だな」と思えるようになったのはごく最近ですね。もちろん、もっと上手に描けるようにはなりたいんですけど、そこは「まあ、そのうち…」的に。

直角さんの漫画

昨年『カフェでよくかかっているJ-POPのボサノヴァカバーを歌う女の一生』が出版されて、『RELAX BOY』の完全版が出て、という流れで直角さんのお仕事に触れる機会が立て続けにあって思うのは、形態は変わったり絵のタッチが変わったりしてはいるけれど、そこに詰まっている情報というか伝えてくるものは同じだなということなんですが。

究極のところ、アウトプットの形はなんでもいいと思っていて、伝わりやすいかたちであれば文章でもイラストでもマンガでも、より良いほうを選んで表現できたら、というのはありますね。ただ、誤解生みそうでアレなんですけど、マンガや文章を軽視しているということではないんです。僕は文章一本でもマンガ一本でもやってきたわけじゃないから、どちらも自分の中の、自然なアウトプットの方法としてある、っていうことで。「漫画家はマンガだけ描いてなきゃ」とか、「文章だけ書いてなきゃ認めない」みたいな、「この道一本」的な価値観、あるじゃないですか。その価値観で見られると、僕はすごい中途半端な存在に映ると思うんですけど。でもそのぶん、制約なく泳げたらいいなあと思ってます。画力はものすごい制約あるんだけど…(笑)。

マンガであっても、登場する固有名詞の数や会話の中のテキストの量、情報量が多いのは、直角さんがライターである故なのかなとも思うのですが。

それはたぶんそうですね。なんか、「自分にしか描けないものを描かなくては」、もしくは「ガチの漫画家さんがあまり描かない部分を描かなくては」という気持ちは強くてですね、情報とかディテールはネチネチ描いてしまいますね。こないだまで毎週16ページを4回、描いたんですけど、アレ、ものすごい大変ですね、マンガ描くのって(笑)。ボロボロになってしまう。昔のトラウマがあるから、連載のお仕事をもらえるのはすごく嬉しくて請けちゃうんだけど。

これからのご予定は?

その毎週16ページを4回というのが、『SPA!』での『奥田民生になりたいボーイ 出会う男すべて狂わせるガール』というマンガで、4回掲載になったんですけど、そのあとさらに続きを書き下ろして足して、まとめたものが本になって6月~7月に出ます。ボロボロになりながら絶賛熱筆中です!!

楽しみにしています!

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*マガジンハウスが発行していた雑誌。2006年に休刊。
**編集者の岡本仁氏。『relax』の元編集長。

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