住宅雑誌Replan（リプラン）

キッチンガーデンと台所が直結

美味しい暮らしをつむぐ家

■札幌市・Ｍさん宅
■設計／アトリエアク　井端明男
　TEL：011-642-1181

社宅住まいではできなかった、野菜づくりや庭いじりを思う存分、満喫しています。
　2001年10月、南区藤野の住宅街に完成したＭさんの住まいは、ハーブや野菜がすくすくと育つ10坪のキッチンガーデンを囲むＬ字型。その中庭の脇に設けられたアプローチを抜け、玄関に入ると、土間のあるリビング・ダイニング、台所へと続くのびやかな空間が広がっています。さらに、台所横のデッキには庭への出入り口があり、住まいとキッチンガーデンが１本の動線で結ばれています。そして、家のどの場所にいても、その彩り豊かな菜園が目に飛び込んでくるよう、巧みに開口部の位置や高さが計算されています。
　会社員のＭさんはこれまで20年にもわたり、道外での転勤生活を送っていました。福井県で暮らしていたとき、偶然、専門誌で井端明男さん設計の家を見つけて、ひと目惚れ。
　帰省の折には井端さんに会いに出掛け、すっかり意気投合してしまったとか。その１年後、札幌へ戻れることになったのを機に、「夫婦の暮らしを楽しめる家」をテーマに、井端さんとともに家づくりをはじめました。
　「彼の住まいに対する哲学に共感を持っていたので、特別な注文はしませんでした。ただ、井端さん自身が住みたい家を建てて欲しいとお願いしました」。
　そうしてできあがったのが、キッチンガーデンと台所が直結したこの家でした。設計者の井端さんもまた、自らの住まいで「収穫が楽しめる庭」づくりを実践。Ｍ邸でも、その哲学がいかんなく発揮されたのです。冬が長い札幌では、半年しか使えないキッチンガーデンは、贅沢な空間です。「でも、不思議なものでその分、有意義に使おうという気になるんですね。オンシーズンには、収穫はもちろん、お茶やバーベキューを楽しむアウトドアリビングとしても、大いに活用しました。日々の暮らしに役立つキッチンガーデンがあることで、大好きな北の自然がより身近に感じられるように。これも、嬉しい収穫でした」。
　そう語るＭさんは、スキーにジョギング、登山が大好きな自然派の趣味人でもあります。さらに今年は、キッチンガーデンのある暮らしをはじめたおかげで、野菜やハーブを育てることも趣味のひとつに加わりました。そして、庭をより美しく、実り豊かなものにしたいと「専門書を読み、園芸教室に通うほど、のめり込んだ」とか。
　その努力のかいあって、今年はトマトやピーマン、シシトウ、バジル、ミント類などが順調に育ち、日々の食卓を豊かなものにしてくれました。これから、キッチンガーデンの充実とともに、Ｍさんの暮らしもより一層、実り多いものとなることでしょう。

■どの席、どの場所も、庭を眺める特等席

ダイニングテーブルに座ったときに、菜園が最もよく眺められる高さにしつらえた開口部。
台所脇の出入り口にはウッドデッキが設けられ、お茶を飲んだり、庭仕事の途中で座って休憩できるカフェスペースも。
庭の風景と一体化した開放的な雰囲気のリビングは「いつでもリゾート気分が楽しめる」と、Ｍさんのお気に入りです。

■キッチンガーデンは収穫の喜びを日々味わえるもうひとつの食材庫

本格的に庭づくりをはじめた今年は､キッチンガーデンに12種類ほどの野菜や香草が植えられました。夏野菜の定番、トマトやシシトウ、ピーマン、枝豆のほか、肉料理用にはセージ、魚料理用にはディルなどを植栽。このほか、料理の彩りに重宝するパセリ類や青ジソ、チャイブなども。研究熱心なＭさんは、トマトの隣に互いの成長を助け合う「コンパニオンプランツ」のバジルを植えました。
夏の間はその収穫を使ったサラダを、たっぷり楽しむことができたとか。「自分の庭で採れたと思えば、料理の味も格別。夫婦で囲む食卓での会話も弾みますね」と、奥さんが嬉しそうに話してくれました。

■メインアプローチとキッチンにつながるアプローチと

庭に沿って延びる、レンガ敷きのメインアプローチ。玄関の扉の向こうには、土間が続いています。そしてもうひとつ、ガレージ裏の木戸から庭を通ってキッチンへと続くアプローチは、買い物の荷物を運ぶのにも打ってつけです。

玄関を入ると、リビング横に細長い土間がしつらえられている。冬は床暖房が入る土間は、中庭で暮らす愛犬の冬の居場所にもなっている。

■キッチン脇の出入り口から、実りの庭へ

「自然に、野にあるように」をモットーに整えた庭は、昔から、そこにハーブや野菜が生えていたかのようなナチュラルなたたずまい。対面式のキッチンからも四季折々の庭風景が眺められ、料理に必要なものがあるときは、脇のドアから気軽に収穫に出られます。Ｍさんが丹精込めて育てたミントを、奥さんが摘んでハーブティーにするなど、庭の実りを味わうひとときも、夫妻の楽しみのひとつです。