住宅技術評論家で、高断熱高気密住宅の提唱者として知られる南雄三さんから、震災後の住宅の調査結果が発表されました。
その発表について許諾をいただきましたので、お知らせいたします。
<なお、長文になるため、何回かに分けて掲載いたします。>
ライフラインが断たれた時の暖房と室温低下の実態調査報告
2011.6.25
住宅技術評論家・南雄三
●調査の目的と方法
2011年3月11日14時26分、東北・北関東を大地震と大津波が遅い、広範囲な地域でライフラインが絶たれた。3月とはいえまだ寒さは厳しく、暖房器具が使えなくなった家で、無暖房のまま寒さに震えて数日を過ごす状況が起こった。
そこで、停電して暖房が使えなくなった時に、実態としてどんな対応がなされるのか。また断熱性が高いことで室温低下はどれほど押さえることができるのか、どんな設備や「備え」が災害に強いのか、また自家発電する太陽光発電、コージェネレーションはどんな状態になるのかなど、実際に体験した人々の声を吸い上げるアンケート調査を実施して、把握することにした。
<調査項目>
停電して暖房が使えなくなった時に・・
●どんな対応がなされているのか
●断熱性の違いにより室温低下にどれだけの差があるのか
●どんな設備機器が使えなくなり、またどんな設備機器が停電に強いのか
●どんな備えがあるとよいのか
●自家発電(太陽光発電、コージェネ)の可能性
<調査方法>
この種の調査は対象が被災者のため難しいことが予想された。しかし、被災者といっても東日本大震災では、家が倒壊したり、津波の被害を受けることなく、ただ停電しただけの家が沢山あるので調査は可能であると考えた。
また、家づくり業者は災害後に自社が建設した建物の被害状況を調べることが当たり前になっており、併せて本調査を実施することはむずかしいことではないと考えた。
●調査は業者(工務店、設計事務所、メーカー)がアンケート項目を被災者に質問する形をとった。
●アンケート結果は業者から南雄三事務所に転送され、南雄三が集計、分析を行った。
2.調査対象住宅の概要
2-1ライフラインの停止と復旧状況
震災発生直後の停電戸数は東北電力管内で485万戸、東京電力管内では378万戸という膨大な数となっ
た。 東北電力管内では普及が遅れた宮城県を除いて15日夜までに9割が回復し、宮城県も21日夜には9割が
復旧、東京電力管内では翌日には茨城県の一部を除いて復旧し、茨城県も14日夜には100%復旧した。
一方、都市ガスは震災直後にガス停止した家は46万戸強を数え、その8割以上が宮城県だった。復旧は遅れており、3月末時点で宮城県が30%、岩手県で20%程度にとどまっている。
2-2アンケート回収数(戸数)
アンケート回収数は東青森10戸、岩手27戸、宮城17戸で合計54戸。この内、木造が47戸(戸建44,貸家3)、鉄骨1、RC造6(貸家1,集合5)である。
2-3.気候区分別調査対象住宅の概要
・気候区分のⅡ地域の調査戸数は38戸、Ⅲ地域は16戸だった。
・Ⅱ地域の調査戸数の内、新(築10年以内)は17戸、中(10~30年)が18戸、Ⅲ地域では新築が8戸、中が8戸で、Ⅱ、Ⅲ地域とも新と中が半々の割合となった。
・断熱レベルはⅡ地域では次世代省エネルギー基準未満が16戸、次世代レベルが11戸、次世代超が11戸で断熱レベルが低い、高いがバランスよく集まった。Ⅲ地域では次世代未満が11戸、次世代レベルが3戸、次世代超が3戸で断熱レベルの低いものが多かった。
・停電した期間はⅡ地域が平均2.3日、Ⅲ地域が同4.2日だった。
2-4.オール電化率と暖房用熱源
・オール電化率はⅡ地域では52%、Ⅲ地域では25%だった。また、次世代省エネルギー基準レベル及び超える住宅のほとんどがオール電化を採用しており、その割合はⅡ地域が80%、Ⅲ地域は100%だった。
・暖房用として使っている熱源は、Ⅱ地域では電気15戸、ガス8戸、石油22戸で石油が多かった。Ⅲ地域では電気5戸、ガス11戸、石油7戸だった。
2-5.暖房の種類
・暖房設備では下表のように、Ⅱ地域では温水パネルヒーター、FFストーブが多く、Ⅲ地域ではエアコンが多かった。
2-6.太陽光発電の活用
・太陽光発電を設置している家は7戸あり、調査総数の11%。築10年以内が5戸(同年代戸建住宅での割合20%)と10~30年以内が1戸(同4%)で新しい家に多かった。
・断熱レベルでの割合では次世代省エネルギー基準レベルでは36%の家で搭載しているのに対して、次世代基準超では15%だった。
・太陽光発電を搭載している家のオール電化率は85%と高い(調査対象全体では44%)。
・発電量は最低が3kWh~最高が5kWhで、平均3.7kWhだった。
<長文になるので、2に続きます。>