東日本大震災、全国の住宅会社への法律見解のご提供

弁護士法人匠総合法律事務所
(〒102-0094 東京都千代田区紀尾井町3-8 第2紀尾井町ビル6階)   
弁護士・弁理士 秋野 卓生様から、地震による法律相談の事例を念頭に置いた問答集が、公開されています。
事業者サイドから見ての震災での建物被害についての相談事例です。
事業者のみなさんだけではなく、一般のみなさんにとっても有益と思います。当HPでの掲載をご了解いただきましたので、掲載いたします。

東北地方太平洋沖地震を受け、全国の住宅会社の皆様への
法律見解のご提供。

東北地方太平洋沖地震の被災者の方々にお悔やみとお見舞いを申しあげます。
当事務所には、地震発生直後から住宅会社より様々な法律相談が寄せられております。
住宅業界専門の法律事務所として少しでもお役に立ちたいと思い、本ホームページにて今回の地震に関し、ご連絡を頂いている法律相談の内容とそれに対する法律見解をご案内させていただく事と致しました。
法律相談の内容は、随時、更新して参ります。

Q1 液状化現象により、建物が不同沈下してしまった。この場合、建築会社が是正工事費用を負担しなければならないのか?

A1 まずは、基礎設計に瑕疵がないかどうかご確認いただきたいと思います。
 基礎設計に瑕疵があり、地震をきっかけとして不具合現象が生じたものであれば、当該建物の建築をした建築会社が瑕疵の補修をする義務を負うことになります。
 他方で、もともとの基礎設計に瑕疵はなく、地震によって不具合現象が生じたという場合には、建築会社は瑕疵担保責任を負わない事となります。

Q2 過去に類似判例はあるのですか?

A2 神戸地裁平成14年11月29日判決があります。
 この神戸地裁の事案は、阪神・淡路大震災により、床の傾斜等の不具合が発生した事案です。
 神戸地裁は、被告の本件建物の設計・施工・管理に過失があり、それを原因として、本件建物には阪神・淡路大震災前から被害の一部が発生し、阪神・淡路大震災後に被害が発生・拡大したことが認められるので、被告には損害を賠償する責任がある等として、原告の請求を一部認めました。

Q3 地盤改良工事をやった建物でも不同沈下事故が発生しています。この地盤改良工事を実施した地盤業者は、地震により発生した不具合であるから免責であると主張しています。この免責の主張は通るものなのでしょうか?

A3 地盤業者が実施した調査・解析・診断・地盤改良工事のいずれかに瑕疵があり、地盤改良工事それ自体に問題があり、これが地震や液状化現象に伴って現実化したという場合であれば、地盤業者は発注元である住宅会社に対して瑕疵担保責任を負います。
「地震により発生した沈下事故は免責」とする扱いは、上記調査・解析・診断・地盤改良工事のいずれにも瑕疵がないが地震や液状化現象によって沈下事故が生じた場合に適用されるものと言うべきでしょう。

Q4 当社は、民間連合(旧四会連合)工事請負契約約款にて請負契約を締結しています。
 契約書には、以下の条項があります。

(1)天災その他自然的または人為的な事象であって、甲乙いずれにもその責めを帰することのできない事由(以下「不可抗力」という。)によって、工事の出来高部分、工事仮説物、工事現場に搬入した工事材料、建築設備の機器(有償支給材料を含む。)または施工用機器について損害が生じたときは、乙は、事実発生後すみやかにその状況を甲に通知する。
(2)本条(1)の損害については、甲、乙および丙が協議して重大なものと認め、かつ、乙が善良な管理者としての注意をしたと認められるものは、甲がこれを負担する。
(3)火災保険、建設工事保険その他損害をてん補するものがあるときは、それらの額を本条(2)の甲の負担額から控除する。
※甲:発注者 乙:請負者 丙:監理者

 今回の大震災で、上棟した建前が倒壊してしまったのですが、当社は、そのやり直し費用について、施主に対して請求してよいのでしょうか?

A4 今回の大震災は、不可抗力によって発生したものと言えます。
そして、請負人が善良な管理者としての注意をしていたとしても生じてしまった、天災地変による重大な損害と言えるので、2項により甲、すなわち発注者であるお客様に増加した費用分を負担してもらえることになります。

なお、念のため、予定工程を遵守していたこと(金物の設置を予定通りに実施していたかどうか等)をご確認いただきたくお願いします。
 金物を本来設置すべきところ、これを怠っていたため、倒壊が生じたという場合には、善管注意義務を果たしていなかったと評価される可能性があります。

Q5 引渡し直前の建物について、地震の影響がないことの証明を施主から求められました。この要求に応じなければならないのでしょうか?

A5 基本的には、貴社の顧客対応の範疇の問題であろうと考えます。貴社と顧客間の請負契約書上に記載のない限り、請負契約上の義務としてかかる証明をする義務はないものと考えますが、顧客の不安に対してどのように応えるか、については、各社の判断事項となります。

Q6 今回の大震災にて建築資材の納入の見込みがなく、工事再開の目処が立ちません。今後、住宅会社としてどのように対応すれば良いのでしょうか?

A6 まずは、顧客との請負契約について、工期延期の合意書を交わすことをお勧めします。また、しばらく時間がかかるようでしたら、工事中止の合意書を交わすことをお勧めいたします。

Q7 現在、資材調達のスケジュールが全く立たず、近々契約予定の顧客と契約をして良いか、困惑をしています。
 このような状況で、顧客と契約をするときの注意点を教えてください。

A7 契約書を締結する際、今回の資材搬入の不明瞭な状況を受け、工期の記載を
平成 年 月 日着工
平成 年 月 日完工
とするのではなく、

着工日 資材納入スケジュールが立ち次第、甲乙協議の上決定する
完工日 着工日から●●日

という記載に変更いただき、着工スケジュールが立ち次第、協議の上、着工日を決定するという方法で対応する事が良いのではないか、と考えます。

なお、契約書特記事項に「東日本大震災により、建築資材の調達の日程が不明確な状況にあります。着工日については、資材納入スケジュールが立ち次第、甲乙協議の上決定します。」との特約条項を入れておくと良いでしょう。

また、上記の記載内容については、顧客に対して丁寧にご説明をいただき、ご了承を頂いた上で、契約をしていただく事も重要です。

Q8 資材価格の高騰の可能性もあり、請負代金も変更となる可能性があり、その旨、請負契約書の特記事項に記載できませんか?

A8 まず、請負契約書の請負代金変更の条項に、「契約締結時に予測できない建材価格の高騰を受け、工事請負代金が明らかに不適当であると認められるとき。」という条項を設ける事は検討の余地があると考えます。
 もっとも、具体的にどの程度の建材価格の高騰があった場合に、「工事請負代金が明らかに不適当であると認められる」か、という点については、判断が難しいところです。

 この判断の困難な点を回避するために、「契約書添付の見積書記載の各項目の建材単価が●倍となった場合には、請負代金変更の協議を行う」という条項も検討の余地があります。

 もっとも、こういった条項を設けることは顧客にも予算の上限がありますので、顧客との対応上、現実的には難しい側面もあるでしょう。
 今回の事態について、顧客によく説明を尽くし、双方十分の理解の上で、請負契約を締結することが望まれると思います。

Q9 現在、予定していた建材が納品されない、といった混乱が生じています。この場合、建材が納品にならなければ工事を進捗させる事は出来ませんので、工期の延期をせざるを得ない状況ですが、工期延期の合意は、どのようにすれば良いのでしょうか?

A9 大地震は、天災地変というべき事態であり、この天災地変を直接の原因として工期遅延が生じたとしても「請負者の責めに帰すべき工期遅延」は存在しませんので、住宅会社において工期遅延に基づく責任を負わない事となります(損害賠償を注文者に対してする必要はありません)。
 もっとも、今回の大震災による混乱は、いつ納まり、建材流通がどのように回復していくのか、全く未知数な状態と言わざるを得ません。
 そこで、工事中の注文者との間では、工期延期の合意書 を交わすことをお勧めしたいと思います。
 建材入荷の予定が確実に立っているようでしたら、純粋に変更した工期(着工日・完工日)について変更日を合意すれば良いと思います。
 但し、今回の大震災は各建材工場にて計画停電が予定されていることから、工場稼働ができない、大打撃を受けた状況であり、今後の見通しが立たないなど、まさに、生産側においても混乱をしている状況ですから、住宅会社における工期については見通しが立たないというのが実情であろうと思います。
 このような非常事態ですから、請負契約上の工期については、一度、「工期の定めのない」請負契約に変更する必要があると考えます。
(工期延長の合意 書式例)
1 甲(顧客)と乙(住宅会社)は、本契約で定める建築物の着工から引渡しまでに必要とされる期間(工期)が、平成23年3月11日に関東及び東北地方にかけて発生した大型地震(以下「本件原因」という。)の影響により、現在、予測不可能となった事を確認し、本契約において定められた工期に関する規定は、本覚書の締結をもって「工期の定めはない」ものと変更することを合意する。
2 甲と乙は、前項の状態であるため、本件原因に基づき、着工から引渡しまでの期間が、通常、当該工事に必要とされる期間を超えたとしても、これに関して、一切の異議を申し立てず、遅延損害金は発生しないことを合意する。

Q10 これから顧客と工事請負契約の締結を予定していますが、工事途中に建材が入荷にならず、工事がストップしてしまう可能性があります。このリスクについて顧客に説明をしておくべきでしょうか?

A10 工事中止のリスクについては、明確に顧客に説明すると共に請負契約書の特記事項にその旨記載頂きたいと思います。
(書式)
 平成23年3月11日に関東及び東北地方にかけて発生した大型地震の影響により、工事途中において建材の入荷ができない、職人の手配ができない等の事情により工事が中止となる可能性があります。この場合、お客様と工期について再協議させていただく事となりますので、予めご了承ください。

Q11 サッシが納品されず、やむを得ずブルーシートで養生をし、工事中止をしている建前現場があります。
 工事中止期間中にブルーシートから雨漏りが発生した場合、この雨漏りにより合板等に損傷が発生した場合、その責任は住宅会社が負うことになるのでしょうか?

A11 工事中止期間中も請負人は、善良な管理者の注意をもって現場を管理する責任を負っています。
 この善管注意義務を果たしていないと判断される場合には、住宅会社が雨漏りによる損傷について責任を負う可能性はあります。
 養生をしっかりとすること及び定期的に巡回して雨漏りが発生していないか確認をする必要性は高いと言うべきでしょう。

Q12 今回の大震災の影響により 弊社の標準仕様の商品に、入荷困難なものが複数発生しています。この場合、どのように対応すれば良いでしょうか?

A12 まず、顧客と代替品に変更する事について協議を実施し、この協議がまとまりましたら、契約内容の変更合意をしていただきたいと思います。
 また、これから請負契約を締結する場合には、請負契約書の特記事項に次の記載を加えていただくと良いでしょう。
(書式例)
 甲は乙より、平成23年3月11日に関東及び東北地方にかけて発生した大型地震の影響により契約書添付の設計図書(見積書・仕上表)記載の部材の調達が困難である事の説明を受け、これを了承すると共に、同部材と異なる部材に変更が必要な場合には、仕様変更に同意することとする。

Q13 福島原発に関する報道を見た顧客から、「24時間換気の止め方を教えてほしい」という問い合わせが入っています。
 24時間換気を止めることにより、シックハウス被害や結露の被害など新たなトラブルが出てしまう事が心配です。どのように対処すれば良いでしょうか?

A13 24時間換気を止めることを推奨するような説明(たとえば、換気口は目貼りをしたほうが良いでしょうという説明)は避けていただいた方が良いと考えます。
 あくまで、停止スイッチの場所を教える、排気口の閉め方を教えるという情報提供に止めるべきであろうと考えます。

Q14 震災により借地上の建物が全壊してしまったので、借地権は消滅すると考えて良いのでしょうか?

A14 建物が全壊しても借地権は消滅しません。旧借地法のもとで設定された期限の定めのない借地権は、「朽廃」により消滅しますが、地震による全壊は、「朽廃」にはあたらないので、借地権は消滅しません。
 阪神淡路大震災の際の法律相談事例を見ても、借地借家問題は今後、被災地においては、大きな問題となりますので、不動産業の皆様は、法的知識の習得をお願いいたします。

Q15 契約直前の顧客より、原子力発電所からの放射能飛散等、予測不能な深刻な事態が発生した場合には、契約を無条件で解除できるような条項を設けてもらいたいとの相談を受けました。
 当社は、これに応じようと思いますが、どのような請負契約書の特約条項を設ければ良いでしょうか?

A15 下記条項を書式例として提供いたしますので、ご活用ください。
(書式例)

甲と乙は、平成23年3月11日に関東及び東北地方にかけて発生した大型地震の影響及び原子力発電所からの放射能飛散等、本契約締結時に予期できない深刻な事態が発生し、工事継続が困難である場合には、次の通り措置をする事に合意する。

� 甲及び乙は、相手方に工事の中止を要請することができる。この場合、本契約で定める工期は延長されることにつき、甲乙双方合意する。

� �による工事中止期間が相当程度経過したにもかかわらず、工事再開の見込みが立たない場合には、甲及び乙は、本契約の解除をすることができる。この場合、甲は乙が支出した実費及び外注費について負担する事を合意し、乙は既払額から同実費及び外注費を差し引き、残額を無利息にて甲に返還することに合意する。

Q16 土地建物売買契約を締結して、引渡前の顧客から、契約解除したい旨の連絡が入りました。この契約解除の要請に応じなければならないのでしょうか?

A16 売買契約の解除は、建物に「契約の目的を達成できない」ほどの債務不履行がある場合に買主は売主の債務不履行を理由に解除をすることができます。
 従って、建物に「契約の目的を達成できない」というほどの瑕疵があるとは言えない場合、その他の債務不履行がない場合には、契約解除の請求に応じる必要はない事となります。

Q17 商談中の顧客に対して見積書を提示する際の注意事項を教えてください。

A17 今、顧客に対して提出した見積書の金額については、資材価格の高騰により、増額となる可能性も否定できません。
 従って、見積書有効期限の記載を明記頂くと共に、見積金額については、有効期限を経過した場合に変更となる旨について見積条件として記載することをお勧めいたします。
 また、見積書に記載した住宅部材が、将来、調達困難となり、別のメーカーのものに変更をしなければならない事態も想定されます。
 従って、工事にあたり、調達困難な部材がある場合には、顧客と協議の上、見積書記載の工事内容が変更となる可能性がある旨を見積条件として記載いただくことをお勧めいたします。
 以下に記載例を示しますので、参考にしていただきたいと思います。 

(見積条件の記載例)

1 見積書有効期限は、平成  年  月  日であることを確認するとともに、同有効期限を経過した場合には、見積金額が変更となることがあります。

2 工事にあたり、調達困難な部材がある場合には、お客様と協議の上、見積書記載の工事内容が変更となる可能性があります。

Q18 建設途中の住宅が津波で消滅し、工事写真も残っていない状況で請負契約を中途解除する場合、代金の清算はどうすればよいでしょうか。

A18 建設途中の住宅が津波で消滅し、建築現場も瓦礫となり、長期間、工事を続行することが不可能となった場合には、履行不能として、危険負担が問題となります。
請負契約の危険負担については、以下のような見解の対立があります。
(1)534条適用説
 仕事完成前に生じた履行不能については民法536条を適用し、完成後に生じた履行不能については同法534条を適用すべきとする説であり、請負における売買契約的要素を重視した説です。請負の目的が単に一定の結果を作出することだけにあって、物権の設定・移転を要しない場合には、民法536条が適用され、請負人が危険を負担し、請負の内容が仕事完成だけではなく完成した物の所有権の移転も必要とする場合(仕事の完成と仕事の目的物の所有権の移転が二重の連続もしくは併合的結合をなしている場合)には、仕事の完成までの危険は請負人が負担し、完成後には同法534条を適用して注文者が危険を負担するとします。
(2)536条適用説
 注文者が受領遅滞にある場合を除いて、引渡前において履行不能を生じた場合には、民法536条1項により請負人が危険を負担するべきもの、とする説です。この説は、請負人の受けるべき反対給付は売買のように目的物そのものの対価だけでなく、仕事の完成に対する対価も包含しているから民法534条の適用は妥当でないとします。かなり昔の判例になりますが、大審院明治35年12月28日判決(民録8・11・100)や大審院大正3年12月26日(民録20・1208)は、この説と同じ立場に立ちます。
(3)本事例の場合
 本事例では、判例の立場でもある536条適用説によると、注文者が受領遅滞にあるという事情もなく、目的物の引き渡し前の履行不能であることから、請負人が危険を負担することになります。また、534条適用説にたっても、仕事完成前の履行不能の場面になりますので民法536条の適用ということになり、請負人が危険を負担することになります。

以上より、出来高が津波で流されてしまい、出来高が存在しないと言う結果となった場合には、その危険は、請負人が負担することになり、大震災発生前までの出来高の請求はできない事となります。

Q19 いつ完成するのか分からないという説明では、顧客が非常に不安になると思います。2ヶ月工期を延長する合意を交わし、この急場をしのぐという方法を採用する方が良いのではないでしょうか?

A19 今後の納品スケジュールなど、全く先が立たない現状では、2ヶ月と工期を明示して合意をすると、仮に2ヶ月で完成しなかった場合、かえって、再延長で約束した工期を守らなかったという理由で、貴社の責任(損害賠償責任含む)が発生するリスクがあると考えます。
現状は、「期限の定めのない契約」に変更し、工期については、未定、その上で、不可抗力により発生した損害であるから、貴社に対して一切損害賠償請求をしない、という合意を交わしておく必要性は高いと当職は、考えております。

Q20 当社の物流倉庫が津波で被災しました。
当社の在庫商品(木材)が津波で流され、隣の土地に転がり込んでしまいました。
隣の工場の主と連絡が取れません。
当社は、勝手に隣の工場の敷地に入って当社在庫商品を回収してきて良いのでしょうか?

A20 土地所有権は土地の支配権をその内容とするものであり,他人の立入りを拒むことができる権利ですから,貴社が在庫商品を回収するために隣地に入ることは,原則として,隣地所有者の所有権を侵害する行為になります。

 ところで,貴社は在庫商品の所有権を有するところ,隣地所有者は隣地を占有し,その上に在庫商品が存在していますから,隣地所有者が在庫商品を占有しているということが出来る状態になっています。

したがって,観念的には,隣地所有者は在庫商品を権原無く占有しているといえることから,貴社は隣地所有者の許可無く在庫商品を回収することができるか否かが問題となるのです。

 このような法律関係において,貴社が隣地所有者に対して返還請求権を行使できるかどうかについては,学説上争いがありますが,少なくとも,隣地所有者は貴社が自らの費用で在庫商品を回収することを拒否することはできないと考えられています(内田貴,「民法�(第4版)」,P327)。

 貴社は在庫商品をもって,隣地所有者の乙の占有権を侵害しているということもできる状態にあります。したがって,貴社には隣地から在庫商品を撤去する義務も生じているのです。
また,隣地所有者には在庫商品を占有する権原もないことからすれば,隣地所有者と連絡が取れないような場合には,隣地に入ることについて隣地所有者の推定的同意があると考えることが出来る場合があると考えられます。

2 なお,仮に,許可なく隣地に侵入したことが違法となる場合には,物権侵害に基づく損害賠償請求権(民法709条)が成立することとなります。
この場合,本件のような事情がある場合には,貴社が隣地から在庫商品を撤去せずに放置し続けること自体も不法行為となることを重視すれば,違法性が高いということはできず,また実害が生じる場面でもないことからすれば,損害がないといえる可能性が高く,損害賠償の責に負う可能性が高いとは言えません。

3 また,隣地に侵入することは,隣地が建物の敷地である場合には,住居侵入罪(刑法130条)に該当する恐れがあります。
 「正当な理由」がある場合には,住居侵入罪は成立しませんが,「正当な理由」とは違法性阻却事由があたると解されており、本件においては,上述の推定的同意があるといえるときには違法性阻却事由があるといえます。また,自己の所有する在庫商品を回復するためといえることから,在庫商品を早急に回収しないと損害が生じるような事情がある場合には緊急避難(刑法37条1項)にあたる可能性が高いため,住居侵入罪が成立しない可能性があります。

4 以上のとおりであり,許可を得て回収するべきですが,文言上の許可を得られなくても,推定的同意があったと考えられるときには問題はありません。更に,推定的同意があると考えて行動したが,実際には推定的同意が無かったと評価される場合であっても,ただちに不法行為や刑法上の犯罪が成立するとはいえないと考えます。

Q21 資材調達及び職人の確保困難により,工期遅延が見込まれるのですが、過去の判例にて、類似事例はあるのでしょうか?

A21 新潟地裁長岡支部平成12年3月30日判決が類似判例として参考となります。

○ 新潟地裁長岡支部平成12年3月30日判決

事案の概要:ナイロン生地業者が,スキーウェア製造業者との間で締結していたナイロン生地の継続的な供給契約につき,一時的なナイロンブームにより染色工場の受注が飽和状態となり,「希望納期」に遅いものでは70日の納期遅れが生じた。そこで,スキーウェアの製造業者が,ナイロン生地業者に対して,販売時期を喪失したため減額販売をしたことにより生じた差額損につき,損害賠償請求をした。

判決:当該事案のもと,希望納期につき,努力目標では無く,一定の法的拘束力は認められるとしつつも,いかなる場合にも「希望納期」通りに被告が納品すべき法的義務を被告に負わせることは過大な要求であるから,確定期限の合意とするべきではなく,希望通りに納品できない特別の事情がある場合には,被告が最大限の努力をすれば,直ちに被告が債務不履行責任を負うことにはならないと判示しました。また,当該,「最大限の努力」に関し,あらゆる犠牲を払えば原告が満足する納期に納品することが絶対に不可能であったと断言することはできないが,私企業の法的義務としてかかる対応を被告に要求することは出来ないとも判示しました。
 その上で,希望納期から遅延した主たる原因は,ナイロンブームという不可抗力によるものであると判示し,ナイロン生地業者が,染色工場と頻繁に交渉をして納期を早めるよう促したり,工程を再検討して工期短縮の検討を行った等の事実を認定した上で,「希望納期」からの遅れを少しでも解消すべく善良な管理者としての義務を果たして,納品を了したものと認められると判示し,スキーウェアの製造業者の請求を全て棄却しました。

○ 判決の意義
 建築請負における「予定工期」についても,建築工事が現地における多様な工程を含み,また多様な資材の調達を要求されるため,予定通りに工事を完了させられないことがしばしばあるため「予定」工期と定めていることを重視すれば,上記裁判例における「希望納期」同様,法的拘束力があると考えられますが,遅延が全く許されないという意味における確定期限の合意と解されるべきでないといえます。したがって,住宅会社が最大限の努力をしていれば,履行遅滞の責任を負う可能性は低いと考えることが出来ます。
 また,震災による資材調達及び職人の確保困難といった事情は,上記裁判例におけるナイロンブームによるナイロン生地の調達困難という事情と比較し,より予測困難なものであり,不可抗力であるといえます。
 以上から,上記裁判例の考え方に基づけば,住宅会社としては,資材調達及び職人の確保につき,出来る限りの努力を尽くせば,顧客からの履行遅滞に基づく損害賠償請求及び解除が認められる可能性は低くなるといえるでしょう。

Q22 今回の地震で6/1000以上の勾配が発生したにもかかわらず、当社にも何も言ってこなかった為保証が継続されていた場合、3年後に顧客より6/1000以上の勾配があり不同沈下である旨のクレームが発生する可能性もあると思います。このような問題に対応するためにはどのようなことを注意していたらよろしいでしょうか

A22 まずは、3年後に不同沈下である旨のクレームが出された段階で、当該不同沈下の原因を検証する事となります。
その検証の段階で、見るべきポイントは、建築時(またはクレーム時)における地盤調査データと基礎の現状です。
これらを確認の上、客観的に不同沈下が発生しうる可能性があるかどうかを判断することとなります。
不同沈下が生じる可能性がないにもかかわらず、不同沈下しているという場合には、今回の大震災(不可抗力)による可能性が高いと説明することになろうかと思います。
もっとも、地盤沈下の原因の特定(証明)は非常に難しいと言わざるを得ません。個別のクレームに対して専門的な知見を結集して対応していくほかないと考えます。
現時点において顧客向けに、沈下・傾斜の測定を提案し、現状の確認に住宅会社サイドから出向くことも検討したいところです。棟数をみて、対応可能な住宅会社は同点検を検討いただく事も一方法かと考えます。

Q23 当社では、顧客に対し「いつ着工するか、いつ完成するか分からない」とも言えないので、着工日・完工日は明示した請負契約を交わしたいと考えています。その場合、契約書の特約条項として、どのような条項にすれば良いでしょうか?

A23 下記書式例をご提供いたしますので、請負契約書の特約事項として参考にしてください。

(特記事項の書式例)

平成23年3月11日に関東及び東北地方にかけて発生した東北地方太平洋沖地震の影響その他乙の責めに帰すことのできない事由により、必要な部材・機器の納入時期が遅れる場合には、乙は甲に対し着工予定日及び完成予定日の変更を求めることができます。

Q24 現在、建築中の現場で不同沈下事故が発生したのですが、顧客もギリギリの資金計画を組んでおり、沈下修正工事費用を顧客が捻出できません。
 この場合、どのような対処法があるでしょうか?

A24 建築中物件の場合、沈下修正工事については、顧客の資金計画が立ち次第、工事を実施する旨の合意を取り交わしておく事をお勧めしたいと思います。
 引渡後において、資金を積み立てる等の方法により建築資金を確保し、その確保ができたら、入金する旨合意しておけば、当該沈下修正工事については、顧客の費用負担で実施する旨の証拠にもなりますし、将来、瑕疵主張されるリスクも少ないと考えます。

Q25 当社保証基準では天災等に起因するものについての免責は記載されています。免責を理由に以後の保証は継続しなくてよろし
いものでしょうか?

A25 保証責任それ自体は、保証期間中継続する事となります。

一つ一つの瑕疵のクレームに対し、震災により生じた瑕疵であれば、免責を主張し、震災とは無関係の瑕疵については、保証書に従い、責任を負うという対応になります。

この点、震災によるものか、否か分からない瑕疵もあろうかと思いますが、この点の主張立証責任は瑕疵の主張を受けた貴社が免責条項に該当することを立証する必要があります。

従って、免責を理由に以後の保証は継続しなくてよいということにはなりません。

Q26 一部入荷されないものがあるのですが、引渡を実施したいと思います。引渡時に取り交わす書類に記載する事項を教えてください。

A26 下記書式例をご提供しますので、ご確認ください。

(未完成工事内容の確認)
甲と乙は、平成23年3月11日に関東及び東北地方にかけて発生した大型地震の影響により、下記工事が未完成である事を確認し、乙は建物引渡し後、準備が整い次第、未完成部分の施工を実施することを合意する。

未完成工事
・  
・ 

2 甲と乙は、未完成部分が存する事を理由とした遅延損害金その他の一切の損害賠償請求権は発生しないことを合意する。

Q27 過去の引渡物件で設置していた給湯器が震災により倒れてしまいました。
 現在、この給湯器設置にあたり、アンカーボルトにて固定をしていなかった点について設置の瑕疵を主張されています。
 この問題の法的問題点を教えてください。

A27 アンカーボルト取り付け等の給湯器の固定方法について、給湯器設置当時の施工要領書の記載をご確認ください。
 この施工要領書に従い、固定がされていた場合には、施工の瑕疵はないと考えます。
 逆に、施工要領書記載の固定又はこれと同等と言うべき固定がなされていない場合には、施工に瑕疵があったと判断される可能性があります。

Q28 当社が建築したブロック塀が大地震により倒壊し、隣家の車を壊してしまいました。施工した当社に責任追及がなされていますが、当社に責任はあるのでしょうか?

A28 貴社のブロック塀の施工に瑕疵があったか否かにより判断することとなります。
 昭和53年に起きた宮城県沖地震により、ブロック塀が倒壊したケースで、仙台地裁昭和56年5月8日判決は当該ブロック塀が,その築造された当時,当該地域において通常発生することが予測可能であった震度5の地震動に耐え得る安全性を有していたか否かを客観的に判断して,瑕疵の有無を判断するとしています。

Q29 当社がブロック塀を施工してから18年が経過しました。ブロック塀が大地震により倒壊し、隣家の外壁を壊してしまいました。
 その場合、今の基準に適合するようにブロック塀を改造しなかった事によりブロック塀の所有者(OB顧客)が隣家に対して損害賠償義務を負わなければならないのですか?

A29 仙台地裁昭和56年5月8日判決は「設置当時瑕疵がなかった建築物につきその後何らの異常がない場合にも新たな法規による基準に適合すべくこれが補修ないし改造をすることは必ずしも一般に期待できないところであるから、これを怠ったからといって保存について瑕疵があったものと言うことはできない」と判示しています。
 ですから、今の建築基準法施行令第62条の8(へい)、平成12年建設省告示第1355号に適合しているか否かで瑕疵の有無の判断をするのではなく、Q29のとおり、震度5の地震動に耐え得る安全性を有していたか否かを客観的に判断して,瑕疵の有無を判断する事となるでしょう。

Q30 福島県内の下水処理場の汚泥などから高濃度の放射性セシウムが検出された問題を受け、顧客より、打設した基礎コンクリートに放射性セシウムが含まれているのではないか?と不安の声が寄せられています。セメント会社に確認したところ、安全性に問題はないというコメントを受けました。この件について顧客向けに文書を作成したいと思いますが、この文書作成にあたっての注意点を教えてください。

A30 抑えていただきたい点は、各セメント会社の公表資料を見ると、「一切放射性物質は含まれていません」とは記載されていません。
 「セメント中の放射線量は、震災前後で変化はない」と記載されている場合には、その旨、顧客に説明いただきたいと思います。

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